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 ぱくん。
 満面の笑みで団子を頬張るその男の傍らに、空になった団子の皿が積み上げられていく。
 男の名は、石田正澄。
 天下に名を轟かせる豊臣秀吉の片腕とも言える官僚、石田三成の実兄である。

「やはり、ここはいつ来ても落ち着きますね」
 茶をすすり、ほぅ、と息をつく。
 何かと敵の多い実弟が秀吉軍に於いて高い地位についた今、いつ弟の政敵に命を狙われてもおかしくはない身である。にも関わらず、あまりにも呑気であった。
「いいんですか、弥三坊ちゃん。こんな所まで出てきてしまって。申し付けて下されば、屋敷にいくらでもお持ちしますのに」
 そう言いながらも、代わりの団子を持ってくるのは、この茶屋の女将である。幼い頃から父に連れられて店を訪れてていた事もあって、未だに幼名で呼んでは可愛がってくれていた。
 母のいない彼にとっては、ある意味では母のような存在でもあった。
「いいんですよ。僕の仕事なんて、父に代わっての領主代行くらいですし」
 呑気に笑い、もうひとつ、団子を口に運ぶ。
「……弥三。食べすぎ」
 ぽつりと、呟くように諌めたのは彼の傍仕えの藤高。
 石田家の兄弟がまだ幼い頃、盗賊に襲われて家族を失ったが、彼らの父石田正継に助け出された縁で小姓として引き取られた。小姓と言っても、歳が近かった事もあって、実際には兄弟のように育ってきた間柄である。そのせいか、立場上は家臣でありながら、友のように振舞っている。また、正澄自身もそうする事を望んでいた。
「藤も食べますか?」
「甘いものは……あまり好まない」

 美味しいのに。
 正澄が口の中で呟いた、その時。
 誰かの影が重なった。顔を上げると、そこにいたのは見慣れぬ旅装束の男だった。
「お邪魔しても?」
 一見、穏やかな印象の男である。
 服装も、ごく普通の商人のそれ。

 だが……。

「弥三」
 ごく小さな声で、藤高が呟き。
 きゅ、と。震える指で、正澄の袖を掴む。

 幼い頃の体験が未だ尾を引き、不穏な空気には、痛ましいほどに敏感なのだ。

 判っている、そう頷いて見せ、正澄は男に笑顔を向けた。
「どうぞ」
 しかし、その双眸には一瞬の油断も無かった。

「失礼ですが」
 団子と茶を注文すると、男は正澄を真っ直ぐに見た。
「もしや、石田正澄殿では?」
 その言葉に、正澄は一層の警戒を強めた。
 父や弟同様、秀吉の家臣という立場ではあるが、彼らのように表立って動く事はなかった。また、文化人との交流もあるものの、文でのやりとりばかりで顔を合わせる機会にも恵まれて来なかった。
 ただの旅人が、そんな彼の顔を知っているはずがない。
「旅の方とお見受けしますが、弟ならばいざしらず、私などの顔をよくご存知で」
 誤魔化しても無駄――。
 ならば、相手の出方から正体を探るのが得策。
 即座にそう悟り、牽制を仕掛けた。
「噂を耳にしていましてね」
「噂、と仰いますと?」
「かの三成殿には、よく似た兄がいらっしゃると。そして石田領の領代を勤めておられると」

 成る程。
 この程度の話ならば、得るのは容易いだろう。
 極端な話、その気になれば誰でも知り得る内容だ。
 つまり、この男の素性や目的を、ここから探るのは難しいという事でもある。

「三成殿は」
 男は、正澄の探りに気付いているのかいないのか、言葉を続けてくる。
「秀吉軍の兵糧を一手に担う程だとか。その上、内政にも優れ、あの若さで実質的には無くてはならぬ片腕だとも」
「ええ、よく出来た自慢の弟です」
「正澄殿。良いんですか?」
「と、申しますと?」
「秀吉殿は、天下人への道を登っている方。三成殿は、その片腕にならんとしている。……本来、立てるべき兄を故郷に留め置き差し置いて」

 ――目的が読めてきた。
 出世を重ねていく弟への反感を煽り、反目させての切り崩し工作。
 そして、あわよくばお家騒動を引き起こそうと。
 つまりはそういういう腹積もりか。


 ……馬鹿馬鹿しい。

 
 笑顔を崩さず、正澄は団子を口に運び、飲み込んだ。
「生憎と」
 茶をすすりながら、ゆるりと受け答える。
「出世にも領土拡大にも興味がないものでして。……こうして、手の届く範囲の生活を守って、ゆったりと茶を嗜み歌を詠む……それで充分。そういう性分なのですよ。折角、弟が面倒な事をしてくれるって言うんですから、それを妨害する理由は何一つとしてありません」

 正澄は、袖を掴む藤高の指を外させ、尚も何か言いたげな男の目を真っ直ぐに見た。
 その顔から、すぅ、と笑顔が消えた。
 双眸の奥にあるものは、凍りつくような、闇。
「貴方の飼い主が何者かは存じませんが。この程度で反目を図ろうとは、我が石田家も見くびられたものですね。……さ、下らない小細工は仕舞いにして、早々に消えなさい」

 さもなくば……。

 団子の串を男の喉下に、つきつける。
 その先端は、正確に急所を捉えていた。
 
「血の海に沈む事になりますよ」

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うちの設定では、これが本性。

実際にもこの手の工作ってあったのかなぁ。
兄が弟を支えるレアな兄弟関係だし。
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