忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 はらり。

 暗く澱んだ空から、白いものが舞い落ちてきた。
 視線を巡らし、石田三成は頭上を見上げる。

「……道理で」
 朝から酷く冷え込んでいたわけだ。
 秋が終わり初めて降る雪に、三成は形の良い眉をひそめた。元々、都の冬は寒さが厳しいが、雪など目にしてしまっては余計に酷く感じると言うもの。
 彼は細い肩を震わせ、屋敷へと戻る足を速めた。

     *     *     *

 屋敷に戻ると、そこはまるで別世界だった。
 じんわりと、体中に染み入ってくる柔らかな熱。
 冷え切った手足を温める、ひりひりとした痛みすらも心地良い。
 しかし。
「殿」
 ほっと一息つく間もなく、声をかけてきたのは石田家家老、島左近。
「あんまり遅いんで心配しましたよ」
「すまん。つい、話し込んでしまってな。おかげで、すっかり降られてしまった」
 口ではそう言うものの、表情は穏やかで、心なしか楽しそうでもあった。
「全く。ちゃんと乾かさないと駄目ですよ。殿はすぐに腹を壊すんですから」
「……俺を子供扱いするな」
 外の冷気のせいなのか。
 それとも左近の言葉が癇に障ったのか。
 白い顔をわずかに紅潮させて、声を荒げそうになる……と。
「――でも」
 ぽつりと、奥から耳触りのいい声が聞こえて来た。
「わたしも、左近殿の言い分に同感だよ。佐吉」

 聞き覚えのある声に、佐吉、と呼ばれて。
 三成は目を見開いた。

 まさか。
「紀之介?」
 目線を上げると、三成の旧友であり、親友でもある大谷吉継の姿が、そこにあった。
 いつもと変わらぬ、穏やかな笑顔を浮かべて。


「ちょっと、急な用事でね。文を送っても、わたしが辿り着くのと大して変わらないだろうから」
 奥の間に通された吉継は、いつもと変わらぬ調子で話し、薄茶を口に含んだ。
 彼が敦賀の領主になってからは、会う機会はめっきり減ってしまった。それ故か、病魔に侵された彼の体が、会う度に酷く悪化しているように見えてしまう。
 今も、整った顔の半分は覆面で覆われ、体にも指の先まで包帯が巻かれていた。
「だから、直接来たと」
「そうだよ」
 多忙すぎる友人に対して少しも悪びれた様子もなく、吉継は小さく頷き、笑みを浮かべる。
「居なければ、それはそれで仕方がないと思っていたけれど」
 居れば、無理にでも時間を割いてくれるだろうから――。
 言外に含まれた言葉を察して、三成は頭を掻いた。
 紀之介には敵わぬ、と心の中で呟きながら。

「……本格的に降ってきたね」
 わずかに障子を開け、窓の隙間から外を眺める吉継。
「紀之介には、この程度の雪など珍しくもないだろう? 春日山の兼続が、あのあたり一帯は酷い雪と寒さで、冬になると身動きが取れないと言っていた」
「うん。たしかに雪は深いけれど……それでも春日山のあたりに比べれば、まだ多少は穏やかだから」
 吉継は目を落とし、小さく呟いた。
「……少し、刺すような寒さが傷に凍みるけれど、それでもわたしは好きだよ」

 雪はすべてを綺麗に隠してくれる。
 醜いものも。

 ……すべてを。


「俺は嫌いだ」
 きっぱりと言い放つ三成に、吉継は目を丸くした。
「物資の流通が滞る。人も動かなくなる。足元もぬかるむ。そして何より……寒い」
 馬鹿正直すぎる言葉に、吉継は思わず噴き出した。
「……何がおかしい」
「いや、佐吉らしいなと思ってね」
 なぜ笑われたのか理解できない三成が、ふん、と鼻を鳴らす。
 
 窓の隙間から外を眺めると、白いものが積もり始めているのが見えた。
 陽は厚い雲に覆われているものの、雪灯りが仄かに照らし。
 雪が音を消しているのか、あたりはとても静かだった。
「……だが」
 ぽつりと、静寂をかき消すかのように、三成が言う。

「雪の日の澄んだ空気と静けさは……嫌いではない」
 かすかに、口元に笑みを浮かべて。
PR
Mail
お気軽にどうぞ。
Powered by SHINOBI.JP

INDEX   CLAP!
WEB拍手 お礼ログ5種ランダム
お返事は呟きにて

=石田三成同盟= 西軍同盟
無双三成公同盟 秀吉子飼い同盟 
俺設定同盟 ネツゾウケイ 歴史同人注意報
治部少輔検索  戦国無双FanMap
戦国無双探索
HOME
忍者ブログ [PR]