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 それは、突き抜けるように青く、何処までも高い空だった。

 ひい、ふう。
 一人の侍が、竹林の脇に続く小道を歩いている。汗をにじませ、湿った息を吹きながら。
 年の頃は30代の半ばほどだろうか。供もつけておらず、身なりも立派とは言いがたい小男だが、小さな体にみなぎる野心は、今にも溢れんばかりであった。

 ふと、小道の先に目を遣ると……竹林の陰に隠れるようにして建っている寺が目に入った。構えは立派だが、質素で無駄を感じさせない。
 それを見た途端、彼の喉が強烈な渇きを訴えた。
 そういえば、今朝、宿を発ってからロクに喉を潤していない。
 ふぅ、と真っ青な空を見上げる。
(ま、このくらいの休憩、あの方も大目に見てくれるじゃろ)
 脳裏にちらつく主君の顔を振り払い、彼は寺の門まで足を速めた。
 

 狩りの途中で喉の渇きを覚えたので一服の茶を所望したい――。
 侍がそう告げると、寺の住職は快く彼を招き入れた。無論、嘘なのだが、馬鹿正直に目的を告げる事は出来ない。
 彼は客間に上がり、周囲を見渡した。なるほど外観に違わず、内装も質素で無駄がない。清涼感に溢れ、空気が澄み切っている。
 深呼吸をすると、かすかな香の香りが漂ってきた。
「失礼します」
 凛、とした少年の声が耳に届き、襖が開く。
(……ほぉ)
 12、3といったところか。見るからに頭の良さそうなその寺小姓は、一瞬、美しいおなごと見紛う程に整った顔立ちをしていた。この男に衆道の趣味はないが、それでも、内心で感嘆の声を上げる程だった。
 少年は、手にした大椀の茶を男に差し出した。
 ふわり、と先ほど嗅いだ香の香りがした。

 この小僧が焚いているのか?

 まじまじとその顔を見つめる。もう一回りも歳を重ねれば、確かによく似合うだろう。
 だが……

「何がございましたでしょうか」
 気後れするでもなく、真っ直ぐに、澄んだ双眸が男を射ぬいた。
 そして、気づいた。
 よくよく見ると、うっすらと目が赤く、微かに瞼も腫れているではないか。
「いや、何でもない。頂くぞ」

 男は運ばれてきた茶を一口含み、一瞬、目を丸くした。そしてごくごくと音を立て、一気に飲み干した。ぬるさも、濃さも、乾いた喉を潤すには申し分ない加減だった。
 一気に空にした茶碗を少年に戻し、彼はもう一服の茶を所望した。
 次は先ほどよりは熱く、濃い茶であった。その加減も絶妙であったので、男は次の1杯も所望した。
 3杯目に出された茶は、少量だが熱く濃い茶で、ゆっくりと飲み干した時には、乾きも疲れも完全に吹き飛んでいた。

「のう、坊主」
 空になった茶碗を少年に返し、男は口を開いた。
「もしやお主、喪が明けたばかりなんじゃないんか?」
 男に指摘され、少年はびくりと肩を跳ねさせた。
「その通りでございます。一番上の兄が病に斃れ、つい先日まで、喪に服しておりました」
「それは気の毒じゃったのう」
「あの……匂いましたでしょうか」
 忌み事の匂いがして不快ではなかったか、と尋ねているらしい。だが、その若干焦点のずれた問い方に、男は思わず噴き出した。
「面白いヤツじゃな。ワシゃあちぃとも気にしとらん。……時に、この茶、お主が入れたのか?」
「はい、僭越ながら私が点てさせて頂きました」
 安心したのか、強張っていた少年の表情に笑顔が見えた。
「良い茶じゃ。そのような時に、これほどまでに気を使えるとはのぉ。坊主、名はなんと申す?」

 少年は、佐吉、と名乗った。
 男は、今すぐにでも自分の家来として召し抱えたかった。それほどまでに気に入っていた。 
 だが、それには自分の素性を明かさねばならない。それは出来なかった。


 なにせ、彼にとって、ここは敵地の真ん中。
 放浪侍になり済ましての、隠密行動の最中である。
(家臣を召し抱えてきました~、なんて言ったら殺されるじゃろうなぁ)

「……お侍様?」
 苦笑した侍を訝しげに見つめ、佐吉。
「すまんな、ちょっとした思い出し笑いじゃ。……ワシは藤吉郎。またいずれ会いたいもんじゃな」
 意味不明とも、意味深とも取れる言葉に、佐吉はちょこん、と首を傾げた。


 情勢からいって、近いうちにこの地は、藤吉郎と名乗ったこの侍が使える主――第六魔王・織田信長の領土になるだろう。 
 領土が広がれば、彼の元で徐々に力をつけている自分にも、それなりの数の家臣が必要になってくる。

(その時にまた会おう、佐吉)
 心の中で再会を誓い、藤吉郎は寺を去った。




 それから数年後。
 この地を治めていた浅井家は、織田信長の手によって滅び。
 藤吉郎は羽柴秀吉と名を改め、佐吉を家臣として迎える事となる――。


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有名な三献茶の話…のアレンジ。
この逸話は後から作られた派なんですが
(そんだけ気遣い出来たらあんなに敵つくらないだろ理論)
エンパイベントでもOROCHIアイテムでも出てくるので…。

一番上の兄、は正澄紹介のコメントで触れてる一説から。
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