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「いいか、八郎。俺が死んでも、信長の野郎にだけは逆らうんじゃねぇ」

 そう遺して親父殿が逝ったのは、儂が十になって間もない童の頃。
 暗殺と謀殺を繰り返してのし上がってきた親父殿も、病の前には無力だという事を、幼なながらに知った。


 親父殿を動物に喩えるならば、毒蛇のような男であった。
 梟雄などと呼ばれておったようだが、儂に言わせれば毒蛇じゃ。
 その毒蛇を恐れさせた信長という男は、魔王そのものであった。
 しかしその魔王も、いくつかの月が巡る時には謀反に斃れた。

 魔王の後を継いだのは、小さな猿だった。
 しかしそれは人たらし故の偽りで、小猿の皮を剝げば、やはり中身は化け物だった。


  
 親父殿ならば、これを転機と天下のひっくり返しを狙うのかも知れぬが、儂は流れに従った。兵を率いるには幼すぎるというのもあるが、折角可愛がってもらっていて、親父殿から譲られた領地も安堵されていて、これといった不満もないのに、棒に振るのは勿体無いじゃろ?
 なにより面倒くさいしのぉー。




「――って、坊ちゃん。ちゃんと聞いとります?」
 儂は意識を戻し、何かを必死で訴えていたらしい目の前の男に笑顔を向けて頷いた。
 むろん、真っ赤っ赤の嘘っぱちじゃが。

 こやつの名は、小西弥九郎。いや、今は小西行長といったか。親父殿の代からこの宇喜多家に出入りし、仕えていた薬屋のせがれで、見た目によらず腕の立つ士でもある。言葉も満足に扱えぬ頃から、儂がやたらと懐いておったせいか、儂の守り役でもあった。が、親父殿が没してからは、その交渉の腕を買われて子猿の化け物……否、秀吉殿の居城である長浜城に引き抜かれていった。
 それでも、こうして何かと理由をつけては儂の居城に顔を見せるのじゃが……。

 なんでも、件の長浜に『気に入らない奴がいる』とかで。
 話の最後には、いつも同じような愚痴に落ち着く。

 それでついつい、いつもの話か、と耳に栓をしてしまったのじゃな。
 まあ、許せ。


「それでやな、あのお人はこう、いっつもいっつもツンケンしはってて、可愛げの欠片もあらへんのですわ。何様のつもりやねん、ホンマ」
 ふん、と鼻息も荒く。
 しかし正直な所、儂には誰の事を言うておるのか皆目見当もつかぬ。従って、ただ適当に相槌を打つのがやっとで、同意する事も出来ぬ。

 じゃが……。
 こうして言いにくる様も、見慣れればそれはそれで楽しそうで。
 ずっと共におった儂としては、少し、寂しくも思う。
 そして、自由に外に出る事も出来ぬ儂には羨ましくも思う。
 その反面、逐一自分に報告してくることが嬉しくもあって。

 人の心というのは、なんとも難儀で複雑な物か。


 それにしても、人当たりのよさが売りとも言えるこの弥九郎が、こんなにも人を嫌うのは珍しい。
 よほど馬が合わないのか。
 それとも……。
 よほど気になる人物なのか。

 まあ、いずれ、顔を合わせることもあるじゃろ。
 さしあたっては目前に控えた儂の元服の時かのぉ?

(その時が楽しみじゃ)
 時が来るまで、弥九郎の話で想像を膨らませるのもまた一興。
 猿の皮を被った化け物の住まう城には、如何様な魑魅魍魎が巣食っておるのか。

 化け物の猿に飼われておる者どもじゃ。
 鬼とは言わずとも、虎や狐の化身くらいはおるやも知れぬな。


 楽しんでおる事を弥九郎に気付かれぬように。
 喉の奥で、くつりと笑った。

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 外伝的というか、話と話の繋ぎの話。
 モブ武将同士とか、もはや創作と紙一重…。

 この時点での秀家君、一応数えで12~3歳程度です。

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