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沢山の仲間がいた
それはもう
うるさいくらいに
しかしそんな日々は続かずに
気付いたら
ひとりになっていた
こわくて
さみしくて
傷つくのがいやで
傷つかないように
まわりを威嚇して
傷つけた
威嚇すればするほど
自分も傷ついた
それはまるで
山荒の二重問題(ジレンマ)
こんなちっぽけな命で
いっぱいに生きて
声にならない泣き声で
自分を見つけてほしいと叫んで
自分に繋がる糸を必死で手繰り寄せようと
もがいて
もがいて
だけど
自分に降り注ぐのは冷たい銀の雨ばかりで
暖かい居場所も
暖かい声も
暖かい腕も
なにも……
* * *
「……狐?」
植え込みの陰で雨を凌いでいた「それ」は、ぴくり、と顔を上げた。
小さな小さな、子狐だ。
うううぅぅぅぅ。
声の主を睨み、低い唸り声を上げる。
「どうした? そんな所で。仲間とはぐれたか?」
その年取った人物は穏やかに話し掛けると、子狐に手を伸ばした。
だが……。
かち、と音がした。
噛まれる寸前、男が手を引いたからだ。
子狐は相変わらず、低く呻いている。しかし、その小さな体は頼りなく震え、まるで、自分が傷つけられないよう、自分に近づく者を威嚇しているかのようだった。
男は、ふう、と息をついた。
「お前さんのそんな様を見ていると、あの方の事を思い出すな」
その目はどこか寂しく、しかし同時に、愛おしい者をみるようでもあった。
「小さな体で、自分を守る為に精一杯威嚇して、誰も傷つけたくはないのに、傷つけてしまう。そしてご自分の心まで傷つけてしまう。仲間を求めているのに、自分を見つけて欲しいのに、そのせいで、遠ざけてしまう。本当に、不器用な人だ」
男の言葉に、子狐は幾分警戒を解いたようだった。
聡い狐だ、と男は苦笑した。そんな所まで似ている、と加えて。
「俺も独りになっちまった。今は年老いた牢人で満足な金も無いが、それでも良けりゃ俺と来るか?」
男は再度、手を伸ばした。
子狐は、恐る恐るその匂いを嗅いで。
小さな舌で舐めた。
男はくすぐったそうに微笑んだ。
「そうかそうか。それなら、名前をつけてやらんとな。……とは言え、さすがにあの方の名をつけるのは憚られる。何より、今の世ではあの方そのものが禁忌」
さてどうしたものか、と呟いて。
しかし答えは、ひとつしかなかった。
「殿。昔のお名前、お借りしますぜ」
男は目を細め、子狐に名をつけた。
「……佐吉、でどうだ?」
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抽象的な話が書きたくなって。
関ヶ原から数年後。
左近だけ生き残ったパターンを想定。
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