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 日に日に専横を増大させていく徳川家康に対抗すべく、宇喜多秀家に呼応する形で石田三成は挙兵した。
 わずかな暇も惜しむように、諸大名に文を送り、足を運んでは頭を下げ、ようやく徳川勢に対抗できるだけの兵力を揃えることが出来た。

「いいかい? 絶対に、表に立ってはいけないよ」
 親友、大谷吉継は諭すように言う。
「君は、敵を作りすぎてしまったからね……反目する者も現れるだろう。この戦いに勝ちたかったら、裏に徹するんだ。昔の……荷駄隊の指揮や兵糧の管理をしていた、あの頃のようにね」
 その言葉を信じて従い、結果、総大将として毛利輝元を担ぎあげる事にも成功した。


 高台を抑え、会津から転身してきた徳川勢をぐるりと取り囲むように配した完璧な布陣。
 負ける要素は、なかった。

 ……はずだった。
 


 それなのに。


 開戦の直前になって、総大将の毛利輝元が出兵を拒否。
 小早川秀秋は松尾山に陣を敷いていた伊藤盛正を追い出し、強引に陣を敷いた。

 そして慶長5年9月15日――。
 三成率いる西軍の胸中を具現化しているかのような深い霧の中で、戦いの火蓋が切って落とされた。




 最初は、地形の有利もあって西軍優位に事が進んでいた。
 しかし、輝元の代理で陣についた秀元も、四国の雄・長宗我部盛親も、安国寺恵瓊も、どうやら徳川に内応していたらしい吉川広家に阻まれて身動きが取れずにおり、三成が敷いた鶴翼の陣は片翼を失っていた。
 また、九州の島津勢も、気分を害したとかで動こうとしない。
 決め手に欠き、数でも劣る西軍が、東軍に押し切られるのは時間の問題だろう。

(所詮は、寄せ集め……か)
 三成の懐刀である島左近は心の中で呟き、苦虫を噛み潰したような表情の主を見つめた。
 その左近もまた、開戦早々に銃撃によって深手を負っており、前線に立てずにいる。
 肝心なところで役に立てない事の、何と歯がゆい事か。
(松尾山の麓に、吉継さんが陣を敷いているのが、せめてもの救いですかね)
 不穏な動きを見せている、小早川秀秋への睨み。
 それが聴いているのかいないのか。
 ……残る鶴の片翼は、辛うじて折れずにいた。


 その吉継率いる大谷隊は、小早川隊の裏切りに備えて兵を温存しながらも、藤堂、京極両隊を相手に善戦を繰り広げていた。
 鬼気迫るほどの士気と、目を見張るような采配。
 小勢でありながら、決して引けを取らない。
「秀秋や、あの辺りで静観している脇坂たちが動いてくれればね」
 戦況は、家臣の湯浅五助を通じて聞いている。
 西軍が一枚岩でない事には気づいていたが、口をつかずにはいられない。
(さて、どうしたものだろうか)
 決め手に欠くこの戦。
 どこかで西軍有利であることを見せつけ、静観している者たちを鼓舞しなければ、勝ち目はない。


 ――だがしかし。
 先に均衡を崩したのは、東軍の方だった。
 

 突如として、松尾山から秀秋率いる大群が駆け下り、大谷隊を急襲したのだ。


「殿! 小早川隊がこちらに向けて兵を動かしました」
「……やっぱりね」
 五助の報を受け、吉継は頷いた。
「秀秋は実戦経験が少ない。兵の数は多いけどね、それだけだよ。ろくに指揮は出来ないだろうから、この人数でも充分にやれるはず。……さあ、別動隊の出番だ」
 吉継は口元に笑みを浮かべた。
「わたしたちの力を、裏切り者に見せつけてあげようか」

 吉継の精鋭部隊は、数で圧倒する小早川隊を2度3度と押し戻した。
 それは苛烈を極め、まさに鬼神のようであった。
 怯んだ小早川隊に追撃を仕掛けようとした、その時。 
 ――事態は一変する。
 これまで静観を決めていた脇坂安治ら4つもの隊までもが、吉継目がけて襲いかかってきたのだ。

「……まさか、彼らまでも裏切るとは、ね」
 これまで、か。
 東軍、小早川、脇坂ら……三方を取り囲まれてしまえば、さすがの吉継とて勝ち目はない。不自由な身で逃げ通せるはずもない。
 ならば、自分が取る道は……。
「五助」
 彼は、傍らに控える腹心を呼び寄せた。
「これから、君には辛い事を頼むけれど、聞いてくれるかな」
「……殿の為でしたら」
「では……わたしの介錯を」
「殿!」
「そしてその首を、どこかに埋めてはくれないか。この、醜くく爛れた顔を晒されたくはないんだ」
「……御意」
 絞り出すように、五助は応えた。
 必死に、涙をこらえて。
「ありがとう」

 吉継は、己の腹に刃を突き立てた。
 吐き出された鮮血で、ごぼごぼと喉を鳴らしながら。
 唇を微かに開き、声にならない言葉の形を作った。

 さきち……。
 さよなら……。



「紀之介……?」
 ふっと、三成が呟いた。
 目線の先は、松尾山。

 嫌な、胸騒ぎがする。

「殿、どこに行こうっていうんです?」
 無意識のうちに、単身で松尾山の方へと向かおうとしていたらしい。左近に引き留められ、三成は我に帰った。
「左近。……すまん。何だか、嫌な予感がするのだ。紀之介に何かあったのではないかと、ふと思ったものでな」
 左近は、どきりとした。
 士気に拘ってはいけないと思い、三成には伏せていたが、小早川隊の裏切りは耳に届いていたからだ。
「虫の知らせ、って奴ですか。殿にしては、随分と……」
 いつもの軽口で誤魔化そうとした、その矢先。
 物見からの伝令が、届いた。
「伝令! 小早川隊に続き、脇坂隊、小川隊、赤座隊、朽木隊も徳川に呼応! 大谷隊はほぼ壊滅し、大谷吉継殿、自刃!」

 壊滅?
 自刃?

「……今、何と?」
 信じられぬ、といった表情で、三成は物見に問いかけたが、答えが変わるはずもなく。
「紀之介が……死んだ、と?」
 物見も、左近も、何も言わない。
 それは、肯定を意味していた。
「そんな馬鹿なことがあってたまるか! どけ! 俺が直接確かめる! この目で見ぬまで信じぬ! 紀之介が死ぬものか!」
「殿!」
 三成の頬が、鳴った。
「自分が、何者であるかを忘れるな!」
「左近……」
「……と。済みませんね、叩いてしまって」
 でもこのくらいしなきゃ、聞いてくれないでしょ。
 言外に含めて、左近は三成を諭す。
「殿がこの戦を起こしたのは、ここにいるのは、何のためなんです?」
「徳川から、秀吉さまの築いた天下を守るためだ」
「じゃ、後はどうすればいいか、わかりますね」
「落ちろと言うのか!」
「なんだ、わかってんじゃないですか。……さ、ここは食い止めときますから、早く」
「嫌だ! 俺だけ逃げ出すなんて、出来ぬ!」
「なに甘ったれたこと言ってんですか? 生きて、反撃の機会を伺うんですよ。最後まで諦めないで食らいつくのが、この戦を仕掛けた殿の責任って奴でしょう。それとも? そんな覚悟もなく、甘っちょろい夢見事を掲げて、その結果、でかい犠牲を出した揚句に徳川に勝ちを譲るってわけですか」
「まだ負けと決まってなど」
「決してんですよ、もう。鶴の翼はふたつとも折れ、その身にも深い傷を負ったら、あとは地に落ちるだけなんですよ」

 三成に、言い返す言葉はなかった。
 左近に言われた言葉のすべてが、自分でも分っていたことだからだ。
 だから。
 言われるままに、馬に跨り、死地に赴く家臣団を見送る他なかった。

「左近……命令だ。死ぬな」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないですか。大丈夫、そう簡単にゃ死にませんよ」

 強い信頼で結ばれた二人は笑みを交わし……。

 それぞれの、戦いの場へと旅立っていった。
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