最後の願い

もしも、願いが叶うなら……
今一度、会う事が出来るなら……








――殿はご無事だろうか。

木陰に身を預けた俺は、夜空の月を見上げた。

関ヶ原の戦場から脱したのは確認した。
だがその時……
精神的にも体力的にも、既に限界を超えていた。

徳川の手の者に見つかったら命はないだろう。


俺は、自嘲気味に笑った。
戦で受けた銃創は塞がる気配がなく。
手当てをした当て物は、血を吸い尽くしてじとりと重い。

そんな有様で。
己の明日の身も分からぬと言うのに。
主君の事ばかりが気になって仕方が無い。

……参ったね。
相当に、入れ込んじまったらしい。


殿に会えたから、今の俺がある。
もしあの時、殿に会わなければ……
俺はあのまま、酒と女にまみれて燻っていただろう。
そして
酷くつまらない人生の幕を引いていただろう。

だから
もしも、願いが叶うなら……
今一度、会う事が出来るなら……





――左近は無事だろうか。

洞穴に身を潜めた俺は、入り口にこぼれる月の光を見た。

俺を逃がす為、敵陣に乗り込んでいった。
だがその時……
黒田隊の銃撃を受けて腹に酷い傷を負っていた。

上手く戦場を脱していても、瀕死の重症だろう。


俺は、自嘲気味に笑った。
疲労と心労で指一本動かせず。
家康の落ち武者狩りに見つかったが最後、命はない。

そんな有様で。
自分の明日の身も分からぬと言うのに。
家臣の事ばかりが気になって仕方が無い。

……参ったな。
相当、入れ込んでしまったようだ。


左近に会えたから、今の俺がある。
あの時、左近に会わなければ……
俺はあのまま、人を遠ざけ強がるだけだったろう。
そして
酷く面白みのない人生を送っていただろう。

だから
もしも、願いが叶うなら……
今一度、会う事が出来るなら……





伝えたい言葉がある。

たったひとこと。
――『ありがとう』と。


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佐和山主従追悼祭への寄稿作です。


もしももう一度　あなたに会えるなら
たった一言　伝えたい
ありがとう　ありがとう

ＫＯＫＩＡのある曲をイメージして…。